2001/06/03 (日)
福岡市 檜原桜(ひばるざくら)
6/1読売新聞 編集手帳
旧聞をお許しいただきたい。
この春、團伊久磨さんが福岡市内の桧原桜の花見を楽しんだという話だ。
満開の桜に「しみじみとしたご様子でした」と地元のいわば「花守り」の一人土居善胤さん(73)から聞いた。
17年前、道路拡張で8本の桜が伐採されることになった。
「花あわれせめてあと二旬ついの開花をゆるし給え」
と、短冊が桜の枝にかけられて、のちに詠み人は土居さんとわかる。
それに当時の進藤一馬市長(故人)が短冊で歌を返した。
「桜花惜しむ大和心のうるわしやとわに匂わん花の心は」
かくて守られた檜原桜のことは團伊久磨氏のエッセー(パイプのけむり)で、広く世に知られることになる。
「人間が人間を信じる英知に満ちたコミュニケーションの見事な開花」
「檜原の灌漑用の水面には、」と、あのエッセーは結んでいる。「この小さな、然し、美しい心の歴史が、いつまでも、春の廻る度に、絢爛と咲きにおう満開の桜と共に移ることになると思う」