2001/05/30 (水)
ある技術を身につけることが特別の意味を持つ「この道一筋」の倫理観の誕生
日本人の内と外 P125
(山崎)日本人はすぐ、「道」という事を言いますが、ある技術を身につけることが特別の意味を持っているんですね。なにが具体的な仕事の出来ることが大好きで、それを尊敬する風潮が鎌倉頃から会って、やがて「その道一筋」という倫理さえ生まれてきますね。そこで任務の美学みたいのが出来まして、たとえ目先にもっと儲かる仕事があっても、それには魅力は覚えない。…
(司馬)親方になることが、むしろ卑しいとされることがあるんですね。
(山崎)われわれの生活の論理というか美学の中には、そういうところが、一筋強くあると思うんです。
これに対して、中国人というのは、海が嫌いだというのは別にして、やはり一種の普遍性の信者だろうと思うんです。中国人にとって一番の事業は、試験を通って官吏になることであり、一番幸せなことは、どこでも通用するお金を集めることだと思うんです。
たまたま、現在は百姓や猟師をしているかもしれないが、本当は人生にもっと尊いことがあるわけで、中国人は個々の技術には、生涯満足を感じないのではないかと思うんです。
一方、日本人には、ごく卑近な意味でも生活の一般的な理想はなかったのじゃないでしょうか。つまり、なにになったら一番幸せかというような地位は、普遍的な形ではかつてなかったような気がします。近代になって、日本が西洋風の普遍主義を習ったとき、大臣になるか、博士になるか、あるいは大将になるかというような形で、少しは普遍な価値が出てきますけれども、それまではそれそれ一芸が出来れば、それだけで十分に幸せなことだったのではないでしょうか。