Group:=terra 建築
Title:=50年後の新築工事、全体の1割を下回る
From :=TextClipper
Create:=00/08/22 21:55
Udate :=00/08/25 16:52
50年後の新築工事、全体の1割を下回る
武蔵野工業大学環境情報学部教授 岩村和夫
昨年(1999年)の日本建築学会大会で東大生産技術研究所の村上・伊香賀研究室から、大変ショッキングな研究発表があった。今後の人口減少の推移や650兆円という膨大な公的負債を抱える経済状況、さらに除却廃棄物処理費の高騰などの確実に予告できる事態を考慮し、かつ近年学会が推奨するように少なくとも新規建築物の寿命を3倍に延ばすことを前提に推計すると、2050年には年間の全工事量に締める新築工事の割合は10%を大きく下回ると言うものだ。
サスティナビリティ(持続可能性)
建築の工構法や材料にしろ、また構造、設備にしろ、これまでは専門分化した微分法的なアプローチによって急速な技術革新を成し遂げて来た。そしてその多くはさまざまな固定化された前提条件を持つ工学的な分析や手法によっている。
しかし、あるいはダイナミックに、あるいは微妙に変化する『自然環境』や『社会環境』とのホリスティックで持続可能な関係性が問われる今、住まいや建築にもそうした現象や状況に迫ることの出来る統合的なアプローチが不可欠である。
私たちは光にしろ熱にしろ、においにしろ、五感という外界とのインターフェイスを介して瞬時のもとに統合的に感じ状況を判断する。電子情報処理技術の驚異的な発達とともに、私たちはそうしたヒトの自然な機能が人工システムによって代替されることによって、より高度に制御された人工環境の構築が可能であり、それが人間社会の進歩であると考えてきた。
しかし、そうした技術体系の目新しさや面白さは常に短期間のうちに消費され、さらに限りない欲望の再生産を促す。経済の拡大を目的とする正義のしたでその抑止力は存在しない。そして私たちの鋭敏な五感や新体制は、擬似的な自然の中で急速に矮小化さて行く。
いずれにしても住まいや建築と環境の統合体になる問題の本質は、単に設備・機械的な便利さや、快適さの効率を高める課題に終始することによってのみ解決されるものではなく、常に変化する外界との関係性の中で、いかにしてそこに生活したり仕事をしたりするヒトの鋭敏な五感を最大限に生かすことの出来る空間を構築できるかにある。
その為に、専門分化した建築のアプローチを再び統合化する計画・設計の思想と方法が今求められているのである。そしてそのよりどころは決してコンピューターの画面上に現れるシュミレーションの結果だけにあるのではなく、そこに関与する人々の生活者としての身体性を伴う、実感であり、心理的な応答にある。